2018年発表 酸素ナノバブルによるがん細胞におけるHIF1a抑制効果についての論文

https://www.spandidos-publications.com/ijo/52/3/679

2018年に国内外の国立大学の共同研究により発表された論文です。

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日本で開発された最新ナノバブル技術により世界最小数ナノメートルレベルの極小ナノバブルを作り出すことに成功しています。

この論文は大きく4つの論点から構成されています。論文ではじめにこの技術の理論の説明と検証を行っています。続いて作成した酸素ナノバブルの観測、検証を行っっています。さらに、がん細胞株をつかって酸素ナノバブルの生物学的効果の検証を行ないます。まず、低酸素環境に置かれたがん細胞に酸素ナノバブルを投与する実験を行ないます。最後に、放射線治療に対するがん細胞の治療抵抗性を酸素ナノバブル投与群、非投与群で比較しています。

この論文で特に注目すべき点は、添加物などを加えることなく酸素と水だけで、世界で最小と思われる2−3nmのナノバブルを作成している点です。通常のナノバブル技術では、安定で小さい直径のナノバブルは作成することが難しいとされていました。ところが、今回の論文ではそれを覆す結果を示しています。

続いての注目ポイントは、数ナノメートルのナノバブルの計測方法です。ナノバブルのサイズがこれまでに発表されている数十から数百ナノメートルと比べると、とても小さいためレーザーによる計測限界を超えてしまっています。そのため、レーザーによる計測ではなく、世界で初めて、2017年ノーベル賞受賞技術である凍結電子顕微鏡の技術を使ってナノバブルを測定することに成功しています。

さらに、そのナノバブルをがん細胞に投与することによって、低酸素状態におけるHIF1aと呼ばれるがん細胞悪性化に関わる因子が抑制されることを示しています。HIF1a自体は、2016年のオックスフォードグループによる検証で酸素ナノバブルとの関係性が示されているがん細胞の悪性化因子です。

この論文では、動物実験の結果は示されていませんが、動物実験さらには臨床研究などによってこの論文の研究結果のさらなる検証が進むことが期待されます。今後、日本初のナノバブル技術のさらなる臨床応用にますます期待がかかります。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29393397/

Iijima M, Gombodorj N, Tachibana Y, Tachibana K, Yokobori T, Honma K, Nakano T, Asao T, Kuwahara R, Aoyama K, Yasuda H, Kelly M, Kuwano H, Yamanouchi D. Development of single nanometer-sized ultrafine oxygen bubbles to overcome the hypoxia-induced resistance to radiation therapy via the suppression of hypoxia-inducible factor‑1α. Int J Oncol. 2018 Mar;52(3):679-686. doi: 10.3892/ijo.2018.4248. Epub 2018 Jan 18. PMID: 29393397; PMCID: PMC5807044.

https://www.spandidos-publications.com/ijo/52/3/679